ソリー・ガノール「命のロウソク 日本人に救われたユダヤ人の手記」を読む

早稲田大学 杉原千畝石碑


 「戦争反対」はいやというほどに、そしてうんざりするほどきいた。しかし、戦争はなくならない。人類は戦争を欲しないが、人類は戦争を必要としているのだ。そろそろ本気に戦争は起こるものだという前提にたって、極力戦争を起こさないようにする方法を考えるべきだろう。
 ナチスの残酷さ、そして大日本帝国の悪質さは何度もきかされたが、なぜナチスがあれほど残酷になり得たのか、なぜ大日本帝国が無謀な日米開戦に向かわざるを得なかったのかの真剣な議論を公にきいたことがない。
 戦後70年以上もたっているが、世界は第2次世界大戦の勝者である5つの大国によって実質上支配されている。この体制を維持するためには、敗者であるドイツと日本は永久に悪の帝国でなければならない。5つの国が善でドイツと日本が悪なのである。しかし、この構図そのものが本質的に戦争を起こす要因ではないのか。
 ヒットラー1人を歴史上まれに見る独裁者として弾劾するのは簡単である。だが、どうしてヒットラーのような人間が出てきたのであろうか。ヒットラーは合法的に、いや民主主義的に国民による選挙で選ばれた国のリーダーなのである。ヒットラーが悪ければドイツ国民にも責任があるはずだ。それ以上に、勝者であるイギリス・フランスの責任はどうなのか。 
 もし、第1次世界大戦の戦後処理で、イギリス・フランスが主導してドイツにあれほど過酷な賠償を課さなければ、ドイツでナショナリズムが高揚してヒットラーが出現することはなかったのではないのか。当時のドイツは建国してまだ間がなく、いわゆる新興国であったが、工業が発達していて急速に成長しており、既得権をもつ大国であるイギリス・フランスの存在を脅かしていた。イギリス・フランスは、ドイツが第1次大戦で負けたのを機に、二度と自分たちに刃向わないように、過酷な賠償をドイツに課したのである。これには、あのケインズが猛烈に反対した。この巨額な賠償が、ドイツ人のナショナリズムに火を付け、第2次戦争が生じたのである。まさに滑稽の極みである。
 
 ナチスに虐げられたユダヤ人のソリー・ガノールの手記「命のロウソク 日本人に救われたユダヤ人の手記」を読んで深く私は考えさせられた。
 副題の「日本人に救われたユダヤ人の手記」は日本の読者向けに付けられたものであろう。実際、ソリーは杉原千畝に接し、杉原の行動に賛辞を惜しまず、ナチスが崩壊しつつあるとき、収容所で瀕死のソリーに初めて手を差し伸べたのが日系人アメリカ兵のクレランス・マツムラ軍曹であったことを記している。日本人としてたいへん誇らしいが、それ以上に私は手記の内容に衝撃を受けた。
 最も衝撃を受けたのは、ナチスでない右翼のリトアニア人がユダヤ人に対して残酷の限りを尽くしたことである。ナチスとほとんど変わりがない。私は、リトアニア人とナチスの残虐の限りを尽くした描写を読むにつけ、ユダヤ人が哀れでしようがないと思う以上に、なぜ、ユダヤ人はこれほどまでに嫌われるのかということを思った。嫌われるというより、憎悪そのものである。
 ユダヤ人はヨーロッパ中で嫌われている。ヒトラーはこの心理を利用し、ユダヤ人をこの世から抹殺することに共感を得ようとしたのである。なぜ、ユダヤ人が嫌われるのか、これがわからないと、あの戦争の本質はわからない。

 人種差別は現在も厳然として存在する。中東ではナチス以上に残虐な組織(彼らは国と称しているが)が我が物顔で、悪行のしたい放題である。第2次世界大戦のユダヤ人虐殺は現代的な問題でもあるのだ。
 この本のすばらしさは、「アンネの日記」と違って、作者が生き残ることだ。ぜひこの本を読んで、戦争と人種差別そして狂信的なナショナリズムについて考えてほしい。

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Tag : ソリー・ガノール 命のロウソク日本人に救われたユダヤ人の手記 杉原千畝

杉原幸子・杉原弘樹「杉原千畝物語(すぎはらちうねものがたり)」を読む

早稲田大学構内にある杉原千畝顕彰碑 日本は日露戦争において辛うじて勝利したが、財政事情は悲惨そのものであった。日本が大国ロシアとの戦争を決意したとき、多額の戦費を国債を外国に売って賄わなければならない状態であった。
 国債を売る責任をまかされたのが後の蔵相高橋是清であった。高橋は欧米を回り必死になって日本国債を売ろうとしたが、日本はロシアに負けると思っていた欧米の投資家たちは誰も見向きもしなかった。
 ところが困り果てた高橋のところにあるアメリカの銀行家が近づいてきた。彼は日本国債を買いたいといった。彼はユダヤ系アメリカ人であった。当時というよりもいつの時代でもだが、ヨーロッパではユダヤ人が迫害されていた。ロシアでもその例に漏れずユダヤ人は虐げられていた。それに憤慨して銀行家は日露戦争において日本を応援しようとしたのである。それがきっかけとなり銀行家の紹介もあり、日本国債は売れ始め、そして無事に戦費を調達することができたのである。日本がロシアに勝ったのはユダヤ人のおかげだといっても過言ではない。
 シェークスピアの「ベニスの商人」をあげるまでもなく、ヨーロッパでは遠い過去から第2次世界大戦までユダヤ人は迫害され続けてきた。ユダヤ人がなぜ嫌われたのかはいろいろな理由があるが、大きな理由としては2つある。1つは彼らがキリスト教信者ではなく、ユダヤ教信者であることである。もう1つは彼らは非常に優秀な民族で、金融業を支配し、厖大な富を得ていたことである。
 ユダヤ人迫害の最たるものは第2次大戦中のナチスの行為である。ナチスを率いるヒトラーはユダヤ民族の殲滅を目論んだ。この世からユダヤ人を抹消しようとしたのである。このためヨーロッパ特にナチス支配下の国のユダヤ人はナチスに身柄を拘束され収容所に送られて殺された。その数は数百万人ともいわれている。史上稀にみる非人道的暴挙であった。

 「杉原千畝物語」(フォア文庫)は勇気ある外交官杉原千畝について書かれた感動的な本である。著者は杉原幸子・杉原弘樹で、杉原幸子は千畝の夫人、杉原弘樹は千畝の長男である。
 千畝は1939年リトアニアの領事館の領事代行に任命された。領事代行といっても領事館には外交官は千畝1人しかいなかったから、千畝が領事みたいなものであった。
 当時ヨーロッパではナチスが戦線を拡大し、勢いを増していた。ナチスはユダヤ人を捕まえ収容所に送って殺そうとしていた。いわゆる<ユダヤ人狩り>であった。
 ある日、朝目覚めてカーテンを開けると、千畝は外の異様な光景に驚いた。大勢の人が領事館の門の前に佇んで領事館を見つめていたのである。
 その人たちはポーランドから身一つで命からがら逃げてきたユダヤ人たちであった。ポーランドはナチスの支配下にあり、彼らは収容所に送られるところだったのである。
 彼らの要望は領事館から日本に行くビザを発給してもらうことであった。ビザが発給されれば、ソ連経由で日本に行き、そして<ユダヤ人狩り>のないアメリカに行くことができたのである。
 ビザを発給するかどうかの判断は千畝にはできなかった。千畝は本国の外務省に問い合わせた。返答は発給を許可してはならないということであった。千畝は悩みに悩んだ。命を助けるか、それとも命令に従うかの二者択一に迫られた。
 千畝はビザを発給することを決断した。そして懸命に腕も折れよとばかりにビザを書いた。リトアニアはソ連に併合されたのでリトアニアの日本領事館は閉鎖される寸前であった。千畝が書いたビザは6000を超えていた。6000人以上の人が助かったのである。

 「杉原千畝物語」は人間が人間を愛するということがどのようなことなのかを見事に語ってくれる。

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 写真は、早稲田大学構内にある杉原千畝の功績を讃えた石碑です。

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