渋沢栄一「現代語訳 論語と算盤(そろばん)」を読む

常磐橋に建っている渋沢栄一像  渋沢栄一の偉大さを述べる前に渋沢が慧眼の持ち主であったという話を一つ。
 渋沢が初めて西洋に行ったのは1867年のことである。日本では幕府が崩壊し、大政奉還があった年である。その年、フランスで万国博覧会が開催され日本も招待された。招待されたのは将軍家で、その名代となったのが将軍慶喜の弟徳川昭武であった。渋沢は随行員の一人としてお供をした。
 初めて見る西洋はすべての日本人にはまぶしくそして豊かであった。渋沢も例外ではなかった。ただ渋沢の見る目は他の日本人たちとは違った。渋沢は豊かさを作っている土台となるシステムは何かを追求し、それが銀行制度と株式会社制度であることをつきとめた。銀行とは少ないお金を広く集め、大きくなったお金を融資という形で国づくりのために投資しているところであり、株式会社も小さなお金を広く集め、大きな投資をして事業を起こし国を繁栄に導くものであった。銀行と株式会社は渋沢の行動における重要な基本要素となった。
 渋沢と同じような見方をした日本人がいた。福沢諭吉である。福沢も銀行の重要さを認識していた。さすが、歴史に名を残す大人物たちは見る目が違ったのである。
 渋沢なくして日本の近代資本主義を語ることはできない。渋沢が創立に関わった会社は約500に及び、現代でも、王子製紙・東京海上火災・日本郵船・東京電力・東京ガス・帝国ホテルなどは一流企業として日本経済の中で重きをなしている。

 渋沢は誰もが認める大実業家であった。ではどうしたら渋沢のような大実業家になれるのであろうか。大実業家でなくても話をもう少し小さくして、どうしたら会社を成功に導いていけるのであろうか。会社を成功させるためのノウハウを解説した本はそれこそ夥しく出版されているが、この事実こそ成功させる方法がないということの証明ではないか。
 といっても私は会社を成功させるためのヒントでも書かれているのではないかと思って渋沢の「現代語訳 論語と算盤」(守屋淳訳、ちくま新書)を手にとってみた。
 この本には渋沢自身の生き方を通して、人はいかにして生きていくべきかという人生哲学みたいなものが書かれている。非常にわかりやすい。その人生哲学のベースになっているのが論語である。論語というとすぐ道徳めいた話だと思ってしまうが、結局、論語とは人間社会の中でいかにきれいに生きていくかという心の持ちようをいっているのだとこの本を読むとよくわかる。渋沢は論語を例にとりながら自らの信念・哲学を述べている。
 私がこの本で一番感銘を受けたのは渋沢に私心がまったくないことであった。まず新しい事業を起こすときの一番の基準はその事業が国そして人類のためになるかどうかであり、利益は二の次であった。国そして人類のためにならないような事業は長続きしないといっているように私には思われた。
 この本には直接会社を成功させるための方法は書かれていないが、商売だけでなく人間として信用が一番大事であるといっている。そのためにはコツコツと努力するしかないともいっている。
 たくさんの会社を成功させそして自らも大成功した渋沢であるが、渋沢自身成功には無頓着である。というよりも成功に価値があるとは思っていない。成功について次のように述べている。

<成功や失敗といった価値観から抜け出して、超然と自立し、正しい行為の道筋にそって行動し続けるなら、成功や失敗などとはレベルの違う、価値ある生涯を送ることができる。成功など、人として為すべきことを果たした結果生まれるカスにすぎない以上、気にする必要などまったくないのである。>

 大成功した人だからこのようにいえるのであろうか。しかし、何となくわかるような気がする。やはり大事なことは成功とか失敗という見かけのことではなく、自分自身にとって価値ある人生を送っているかどうかにあるのであろう。
 とはいいながらこの本には成功するための生き方の見本がつまっているような気がしてならない。

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 写真は東京都千代田区常磐橋に建っている渋沢栄一像です。

現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)現代語訳 論語と算盤 (ちくま新書)
(2010/02/10)
渋沢 栄一

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