松方冬子「オランダ風説書 『鎖国』日本に語られた『世界』」を読む

築地の公園に建ってるシーボルト像 1853(嘉永6)年のペリー艦隊の突然の来航は日本にとって驚天動地の出来事であった。以来、幕府に対する信頼は揺らぎ、結局1868(慶応4)年に幕府は瓦解した。
 一般には、ペリー艦隊は何の前触れもなく、日本を訪れたようにいわれているが、実は、時の老中阿部正弘はペリー艦隊の来日を前もって知っていた。遡ること1年前の1852年のオランダ風説書に、アメリカの艦隊が大挙して近い将来、日本を訪れると書いてあったのである。阿部は英邁(えいまい)な老中であり、じたばたせずに、アメリカ艦隊を日本に入れない措置をとるより、アメリカ艦隊の要望を直に聞いてから対策を講じようと腹をくくった。
 江戸時代、日本は鎖国をしていたといわれているが、実際には、オランダ・清・朝鮮とは交易していた。幕府が鎖国令を出すまでの日本は、西洋の国と活発に貿易をしていた。オランダの他に、ポルトガル・スペイン・イギリスなどである。ところが、幕府がキリスト教を禁止するや、オランダ以外の国との交易はやめた。オランダにはキリスト教を一切持ち込まないという条件で貿易を許した。
 生活必需品などを貿易していたが、オランダの商人たちは貿易の他に重要な役割を担っていた。それは、海外の情報を幕府に提供するということである。その情報は文書化された。それはオランダ風説書と呼ばれた。

 松方冬子著「オランダ風説書」は、オランダ風説書の成り立ち・形態・内容についてわかりやすく書かれた歴史書である。国内のことだけに目を向けているとばかり思っていた幕府が、海外のことにも目を光らせていたことがわかって、私は幕府もなかなかやるなと思った。
 オランダの貿易は、最初はオランダ東インド会社が一手に引き受けていたが、後に、東インド会社が解散してからは、東インド政庁が取り仕切った。
 オランダ風説書は初めは、ポルトガル・イギリスなどキリスト教を日本に持ち込もうとする国の動向に関する情報であったが、時代が下るにつれてキリスト教の情報というよりも、政治・戦争などの一般の情報が多くなっていった。
 オランダ風説書の形態は2種類ある。1つは長崎に来航した商人から日本の通詞(つうじ)たちが直接聞きだし、それを日本語に翻訳して文書にする「通常の風説書」とバタフィア(現在のジャカルタ)の東インド会社ないし東インド政庁の本部でオランダ語で書かれたものを日本に持ってきて、それを日本語に翻訳した「別段風説書」である。江戸中期以降はほとんどが別段風説書の形態をとった。阿部正弘は別段風説書でアメリカの艦隊の情報を知ったのである。
 日本とオランダにとって、貿易は両国の利害が一致した。日本はキリスト教が入る心配もなく生活必需品を輸入できるし、おまけに海外の情報も得ることができた。対するオランダは日本の貿易を西洋の国としては独占できた。
 オランダ風説書には真実が記されているかといえばそれはあやしい。おそらく、オランダにとっても日本にとっても都合のよいように記された可能性がある。特に、17世紀から国力を増して、世界を股にかけ始めたイギリスを牽制するためにというより、イギリスと日本を絶対に交易させないために、かなりのうそが風説書に書かれたようである。フランスに対しても同様である。
 オランダはイギリスとフランスに徹底的に痛めつけられていた。オランダはイギリスとフランスが日本に近づくのを極度に恐れていた。ヨーロッパの弱小国に成り下がっていたオランダは日本との貿易は重要な生命線であった。
 18世紀後半から19世紀になると広範な情報が風説書に載せられた。アメリカの独立もフランス革命も幕府は知っていた。極め付きはアヘン戦争に関してだった。イギリスがアヘン戦争に勝利して、清を植民地化すると、次は日本だと、幕府は恐れおののいた。幕府は異国船打払令を廃止するなどして、西洋の国々を刺激しないようにした。
 ぺりー以後、日本は西洋の国々と国交を開いた。オランダとも正式に条約を結んだ。これをもってオランダ風説書の役割は終わった。

 西洋の情報はぺりー以後に日本に押し寄せたと思っていたが、ペリー以前にもかなり世界の情報はきていたことが、この本を読んでわかった。幕府が「世界」を見ていたからこそ、日本はまがりなりにも幕末・明治を通じて独立国家として生き延びることができたのであろう。
 江戸時代の日本では、蘭学もあり、かなり西洋の研究が進んでいた。風説書の存在といい、蘭学の存在といい、江戸時代を鎖国であったというのには無理があると、私には思える。

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