上念司「経済で読み解く 大東亜戦争」を読む

東京都池袋 巣鴨プリズン跡地 永久平和を願っての石碑


 今まで、太平洋戦争についての本はたくさん読んだが、どの本を読んでもいささか違和感を覚えた。なぜあの戦争が起こったかの納得する解答がなかったからだ。表面的な取り繕った解答はある。曰く、軍部が暴走したからだ。
 なぜ戦争が起こるのか?この解答をいつも軍部に求めていたらいつまでたっても太平洋戦争の本質は掴めないであろう。
 確かに、太平洋戦争において軍部が戦争を主導したのは事実であるが、なぜ軍部が戦争をしなければならなかったのか。昭和12年の日中戦争は日本が満州に進出したことが原因といわれているが、なぜ日本は満州に進出したのか。それなりの経済的・国際的な理由があったのではないのか。日中戦争を関東軍の暴走が原因とだけいっても何の解明にもならないであろう。なぜ満州に進出したかが解明できなければ、太平洋戦争がなぜ起こったかわからない。歴史学者の書いた歴史書では、あたかも軍部の一人相撲によって戦争が起きたみたいに書かれている。
 2・26事件の首謀者である青年将校たちの第一のスローガンは、国を変えて虐げられた人たちを救うことにあった。当時の日本は不況で、多くの人たちは苦しみ、特に東北の農村地帯では農民は塗炭の苦しみを味わった。2・26事件は右翼革命でも何でもなく、ロシアで起こった社会主義革命と同じである。事件の理論的指導者の北一輝は社会主義者であった。青年将校たちは革命を起こして外国と戦争をしようとなど露とも思っていなかった。彼らは国を憂いていたが、右翼ではなかった。
 軍部が戦争を主導するのは結果であって、戦争の真の原因は他に厳然と存在する。それはとりもなおさず経済である。経済がよければ戦争はしないものである。金持ち喧嘩せずは、国同士にもあてはまる。経済のよい国が戦争をするのは、国益を大きく失う脅威に直面するときである。もし、昭和初期の日本の経済状態がよかったら、あの太平洋戦争はなかったに違いない。

広島県呉市 大和ミュージアム 戦艦大和10分の1模型


 上念司の「経済で読み解く 大東亜戦争」は目からウロコの名著である。大東亜戦争とは太平洋戦争のことである。戦後、日本に駐留したアメリカの占領軍が先の大戦のことを太平洋戦争と命名したのである。現在の太平洋戦争史観といわれているものの原型は占領軍によって意図的に作られたものである。歴史は戦争の勝者によって作り変えられることを肝に銘じるべきだ。
 上念はものの見事に太平洋戦争の元凶をあげている。それは金本位制である。金本位制は、近代史では超有名なテクニカルタームで、入試にはかならず出るといってよい。だが、金本位制という言葉は有名でもその実態はよく知られていない。金本位制が経済にどのような影響を与えるのかはわからない。そもそも金本位制がいい制度なのか悪い制度なのかもわからない。
 血盟団事件で凶弾に斃れた井上準之助は金本位制を復活させた中心人物であるが、あの城山三郎が井上のことを小説で美化していたので、私は金本位制とはいい制度なのかと思っていた。ところが、上念は井上のとった政策が日本を戦争に導いたと示唆している。経済をよく知っているという城山はこのことを認識していたのであろうか。
 上念は金本位制ほど悪いものはないといっている。その理由をわかりやすく論理的に説明しており、私はやっと金本位制なるものがよくわかった。そして、遅ればせながらデフレというものは恐ろしいものだと理解した。
 結論からいうと、金本位制のもとでは貨幣は金の保有量しか発行できないので、経済の成長は止まってしまう。資本主義社会で、経済の成長が止まるのはそれは死を意味する。結局、戦争という究極の選択をせざるを得ないのである。

 この本の中にはお決まりの軍部批判は顔を出さないし、東条英機も出てこない。戦争を起こさない方法は一つだけである。それは国を豊かにすることである。



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テーマ : 読書感想文 - ジャンル : 小説・文学

Tag : 上念司 経済で読み解く 大東亜戦争 永久平和を願って