ジョン・L・カスティ著、寺嶋英志訳「プリンストン高等研究所物語」を読む

 プリンストン高等研究所は世界最高の頭脳が集まる研究所として有名である。相対性理論のアインシュタインもこの研究所の教授であった。教授といっても授業はしない。研究所には学生はいないからだ。プリンストン高等研究所はまさに研究だけのための機関である。
 プリンストン高等研究所には自然科学・数学・社会科学・歴史学の4つの部門がある。特に、物理学と数学の研究が有名である。
 物理学にはアインシュタイン、マンハッタン計画を主導したオッペンハイマー、数学では不完全性定理のゲーデル、コンピュータを開発したノイマンがいた。
 日本人では、物理学の湯川秀樹、数学の小平邦彦が研究員として在籍していた。湯川はノーベル物理学賞、小平は数学のノーベル賞といわれているフィールズ賞を受賞している。プリンストン高等研究所の研究員になるということは、研究者として世界トップクラスであることの証明である。

 ジョン・L・カスティ著、寺嶋英志訳「プリンストン高等研究所物語」はアインシュタイン、ノイマン、ゲーデル、オッペンハイマーを主要な登場人物としたある時期の研究所の物語である。
 物語は大きく2つの主題からなっている。1つはゲーデルの教授昇進の問題、もう1つはノイマンのコンピュータ開発を研究所として認めるかどうかであった。
 ゲーデルは論理学者であったが、20世紀を代表する大数学者でもあった。彼は不完全性定理を発見した。この定理は数学界に驚天動地の衝撃を与えた。この定理は、<すべての数学的命題が論理的演繹によって証明もしくは否定することができるという考え方に異議を唱える>ものであった。
 命題とはかならず真か偽かを証明できるものである。だが、ゲーデルにいわせると、数学の公理から導いていくと、真とも偽とも証明できない命題が存在する。よく引き合いに出されるのが、<「クレタ島に住む人間はみんなうそつきである」とクレタ島に住む人間が言った。はたしてクレタ島に住む人間はうそつきか?>という問題である。この問題に正解はない。数学にはこれに似たような命題が存在する。ゲーデルはこれらを体系的に考えたのである。
 ゲーデルは自ら考え出した定理によって、カントールの連続体仮説の真偽は集合論の公理から独立していることを示した。すなわち、現在の公理的集合論の枠組みの中では、連続体仮説は正しいとも間違っているとも決定できないということである。
 ゲーデルは研究所の終身研究員ではあったが、教授ではなかった。ゲーデルにとっては、このことが不満であった。彼は教授になれないということは、自分の業績を研究所の人間たちは認めていないことだと論理的に考えたのである。結局、ノイマンの強い推薦があって、ゲーデルは教授に昇進した。
 ノイマンは高性能な計算機すなわちコンピュータの必要性を痛感し、自らコンピュータを作り出そうとしていた。ところが、研究所は伝統的に、応用的な研究はしないことになっていた。コンピュータ開発はまさに工学の応用だと思われていたのである。研究所は雰囲気的にノイマンのコンピュータ開発を許そうとしなかった。
 ノイマンはコンピュータの必要性と、コンピュータを使うことによって科学がより進歩することを研究所の評議員たちに訴えた。結果的に、研究所はノイマンのコンピュータ開発を許可した。これによって、現代のコンピュータ社会が実現したわけである。

 ゲーデルが教授になることに執着したことは意外であるが、ゲーデルという大天才にも人間の俗っぽさがあったというのはどこか愉快である。
 歴史に名を残す偉大な天才たちもいろいろと悩んでいたようである。

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