真島節朗「『浪士』石油を掘る」を読む

谷中全生庵に永眠している山岡鉄舟 台東区谷中に全生庵(ぜんしょうあん)という臨済宗の寺がある。この寺には山岡鉄舟の墓がある。なによりもこの寺の開基が山岡鉄舟なのである。
 山岡鉄舟は幕末の三舟の一人である。他の二人は勝海舟・高橋泥舟である。山岡は高橋の義弟である。
 幕末、徳川慶喜から幕府の運命を託された勝海舟は、江戸へ東下してくる官軍の指揮官である西郷隆盛との交渉役に高橋を推薦するが、高橋は江戸を離れることができなかったので、高橋は義弟の山岡を勝に紹介した。勝は山岡を西郷との交渉にあたらせた。山岡は官軍の駐留する駿府に乗り込み、西郷と交渉する。
 この交渉を踏まえて、勝は西郷と江戸で会談し、江戸城の無血開城を決めた。これによって江戸は戦火から免れた。山岡は日本を二分する大きな内乱から日本を救った大功労者であった。
 勝・西郷・山岡には共通したものがあった。それは三人とも私心を去り、ひとえに日本の国のことを思っていたことだ。名誉も金も命もいらないとは、特に西郷と山岡に似合いの言葉である。
 山岡は明治維新後、政府から請われて、明治天皇の侍従になった。
 全生庵には山岡の他にも著名な人が眠っている。その一人が三遊亭円朝である。山岡は禅宗の人で、円朝は山岡の禅から落語の奥義を得たといわれている。その他に、石坂周造がいる。石坂は山岡の義弟で、山岡ほど有名ではないが、知る人ぞ知るという、ある業界では神様みたいな人である。ある業界とは石油業界である。
 石坂は明治の世に、新潟で油田を掘り当てた人である。その油田を日本石油を初めとして創業間もない石油会社に売ることによって、日本の石油産業が勃興したのである。石坂は日本の石油産業を創業した人といってもいいほどの人なのである。
 石坂はさすがに山岡の義弟だけあってスケールのとてつもなく大きな人であった。

 真島節朗の「『浪士』石油を掘る」は石坂の半生を描いた評伝である。幕末・明治維新の歴史が詳しく書かれている。
 半生と書いたのは、石坂の幼少期のことがよくわかっておらず、物語は石坂の青年時代から始まる。石坂は一応医者ではあったが、尊王攘夷の浪士であった。清河八郎らと組んで、幕府を倒そうとするが、そのため、石坂は明治になるまで、三度も牢屋にぶち込まれた。それでも、めげずに尊王攘夷の意志を貫いた。
 幕府がいよいよ瓦解すると、石坂は義兄の山岡らと官軍に抵抗する幕臣たちに身体を張って帰順するよう説得した。山岡同様、石坂も旧幕臣が新政府と干戈を交えるのは日本のためにならないと心底感じていたからであった。
 明治になると石坂は勝海舟から政府の一員になって働かないかと誘われたが、これを断り、日本で石油を掘ることを決断した。これからの日本は石油が非常に重要になると思ったからである。石油を燃料とするランプが普及され始めていた。ランプの明かりはそれまでの行燈の比ではなかった。
 当時、長野で石油が出るといわれ、石坂は巨額な資金を集めて、長野での石油の掘削に邁進した。しかし、結局失敗して莫大な借金だけが残り、破産してしまう。石坂は政府の要人を通して、天皇家からお金をださせて借金の返済にあてた。義兄の山岡も石坂を助けた。
 世間から山師といわれても、石油にかける情熱は石坂から去らなかった。石坂は再び石油堀りに挑戦した。最後、新潟で油田を発見し、石坂は大金持ちになった。

 石坂の人生は想像を絶するほど波乱万丈であった。とにかく、石坂を含めて、明治の実業家には化け物みたいな人間が多かった。彼らが現在の日本の土台を作ったことは間違いのないことである。

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文京区伝通院にある清河八郎墓所 写真上は、全生庵に永眠する山岡鉄舟翁の墓所です。案内によると、山岡家墓所には墓壇上にある有蓋角塔の正面に「全生庵殿鉄舟高歩大居士」とあり、墓所の周囲には鉄門といわれる石坂周造、千葉立造、松岡萬、村上政忠の墓があるとのこです。写真の左側の墓碑には石坂周造と彫られています。
 写真下は、文京区伝通院にある清河八郎の墓所です。手前の墓碑には「贈 正四位清川八郎正明之墓」と彫っています。伝通院は、新選組の前身新徴組の発会が行われた場所で、江戸市中から応募した浪士隊として清川八郎、山岡鉄舟らの呼びかけで芹沢鴨、近藤勇、土方歳三そして石坂周造らが参加しました。
 伝通院は、徳川家の菩提寺で、徳川家康の生母於大(おだい)、二代将軍将軍秀忠の娘また豊臣秀吉と淀君の間に生まれた秀頼の元正妻である千姫、三代将軍家光の正妻孝子の墓所があります。また、清河八郎の墓の隣には作家で歌人の佐藤春夫の墓があります。

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テーマ : 歴史・時代小説 - ジャンル : 本・雑誌

Tag : 「浪士」石油を掘る

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