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濱岡三太郎「曳舟の道 京の豪商、角倉了以・素庵物語」を読む

 「高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。」

 これは森鴎外の「高瀬舟」の出だしである。この名作を読んで以来、私は高瀬川を行き来する舟を高瀬舟というと思っていた。しかし、この考えが違っていたことを後年になって知った。高瀬舟が通る川を高瀬川というのだ。

 鴎外も「附高瀬舟縁起」で、
「京都の高瀬川は、五条から南は天正十五年に、二条から五条までは慶長十七年に、角倉了以(すみのくられうり)が掘ったものださうである。そこを通ふ舟は曳舟である。原来たかせは舟の名で、其船の通ふ川を高瀬川と云ふのだから、同名の川は諸国にある。」 といっている。

 京都の高瀬川は自然発生的にできた川ではなく、人工的に作られた川である。運河といってもよい。作ったのは角倉了以・素庵の親子である。

 角倉家は京都の大商人で、土倉(高利貸・金融)を営み、朱印船貿易で莫大な利益を上げた。その利益でもって、保津川・大堰川を開削して曳舟を通し、高瀬川をも作ったのである。
 角倉了以は大商人として有名だが、和算を普及させた人としても有名である。朱印船貿易で了以は算術書も輸入し、河川の工事に活かした。測量をちゃんとした算術を用いて行ったのである。

 江戸時代を通じて最も読まれた本に「塵劫記」という和算の本がある。吉田光由(みつよし)が1627年に中国の算術の本にヒントを得て初めて「塵劫記」を書いてから、幕末までに何百種類の「塵劫記」が出版された。有名な鶴亀算・植木算なども「塵劫記」に載っている。この吉田光由と了以は親戚である。吉田家は角倉家の本家に当たる。

 川を開削し曳舟を通すとか、運河を作ると簡単にいうけれど、現在でもたいへんな事業であり、なおさら当時(天正から慶長)にあっては想像を絶する難事業であった。金もかかるし、特別な技術を要するし、人手もかかった。それを、角倉了以・素庵の親子が成し遂げたのである。


 濱岡三太郎の「曳舟の道(今日の豪商、角倉了以・素庵)」は角倉親子がいかに苦労して難事業を成し遂げたかを詳しく書いた小説である。小説は素庵の語りで進められる。
 当たり前のことだが、急流の川はエンジンのない当時、舟で上ることは不可能であり、下ることも危険であった。せめて材木を筏にして流すだけであった。
 若き了以は保津川・大堰川を舟で上ったら、たいへん便利であると考えた。夢のような話で、誰も考えつかなかった。
 だが、九州からの帰り、備前吉井川の左岸を、「ほ~いほい、ほ~いほい、ほ~いほい……」と聞きなれない掛け声を掛けながら、舟子(ふなこ、舟を操る人)が、荷を積んだ舟を、上流に曳き綱でひっぱり上げる光景を目にすると、了以は一念発起して、保津川・大堰川を開削して曳舟を通す決心をした。
 現代風にいうと流通のインフラを整備しようとしたのである。このインフラができあがれば、社会が豊かになり、庶民も豊かになると信じた。
 ただ、この事業をやるには莫大な金がかかる。この金を朱印船貿易で捻出することにしたのである。朱印船貿易はリターンも大きいがリスクも大きい。了以は大きな賭けに出て朱印船貿易は大成功する。
 金の準備はできたが、次に、実際に開削する専門家たちを集めるのが一苦労であった。結局、苦労に苦労を重ね、艱難辛苦の末に了以は一大事業を成し遂げた。親の後ろ姿をみていた素庵も河川事業に邁進し、富士川の開削そして高瀬川を作るのであった。
 了以にしても素庵にしても難事業に挑むその原動力は、「利益」ではなく「公のため」であった。
 素庵は実業家と同時に文人であり、儒者といってよいほど儒教に造詣が深かった。素庵は藤原惺窩の弟子であり、林羅山の友人でもあったのだ。実業と儒教がうまくミックスしたからこそ、角倉家は豪商になり、幕末まで安泰であったのであろう。

 とにかく、この小説を読んで、偉大なる実業家の執念を見た思いがした。

森鴎外 高瀬舟を読む

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 過日、御殿場、箱根に出かけました。そのときに撮影した写真を掲載しました。

★ 箱根関所、箱根神社
箱根湯本駅 ロマンスカー・GSE(70000形)

箱根湯本駅 新型ロマンスカー・GSE(70000形)。

箱根八里歌詞の石碑

「箱根八里」歌詞の石碑。

箱根関所 門

箱根関所 番屋

箱根関所 番屋の蝋人形

箱根関所 遠見番所

箱根関所 遠見番所から眺める芦ノ湖

写真上から、箱根関所の門、番屋、蝋人形、遠見番所、遠見番所から眺めた芦ノ湖。

箱根神社 鳥居

箱根神社 社殿

箱根神社 手水舎

箱根神社 社殿

箱根神社 芦ノ湖畔に建立してある鳥居

写真上から、箱根神社の鳥居、社殿、手水舎、社殿、芦ノ湖畔に建立してある鳥居。


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Tag : 濱岡三太郎 曳舟の道 京の豪商 角倉了以・素庵物語

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