福沢諭吉「学問のすゝめ」を読む

麻布山善福寺に埋葬されている福沢諭吉先生 安政6年(1860年)、福沢諭吉は木村摂津守を艦将、勝海舟を艦長とする咸臨丸に乗ってアメリカに行った。そして、その2年後福沢は幕府の遣欧使節に随行し、ヨーロッパへと行く。この2つの視察で、福沢は欧米の文明のすごさをまざまざと見せつけられた。と同時に欧米列強の怖さも知ることになる。
 とくに、ヨーロッパへの行きと帰りに福沢はシナ・インドの諸港において、その住民たちが唯々諾々とイギリス人の使役に服して恥じることのない姿を垣間見た。当時、インド・香港はイギリスの植民地であった。

 幕末から明治を通じて、日本はつねにインドや香港のような運命になる危険な状態にあった。幕末に結んだ欧米列強との条約はどれも不平等条約であった。国内では政権をとった薩長閥は急速に欧化政策へと向かっていった。
 進取の気性に富み、当時の最大の知識人であった福沢はなによりも日本の独立を考えていた。彼は一日も早く日本を完全な独立国にしようと、民間の立場で主張した。福沢にとって、日本を独立させるためには、人民にたいして蒙を啓(ひら)くことであった。福沢は日本人をイギリス人に使われて何も文句をいわないインド人そしてシナ人みたいにしたくなかったのである。民心を一新させようと書いたものが「学問のすゝめ」である。

 「学問のすゝめ」は17編からなっている。第1編は明治5年に書かれ、同9年に第17編を書き終わるまで継続的に書き継がれたものである。1編1冊として出版され、明治13年までに70万冊も売れた大ベストセラーになった。「学問のすゝめ」がかくも売れたのはなぜであろうか。やはり、日本の将来を憂いていた人が多かったからだろうか。それよりもなによりも私には「学問のすゝめ」がそれまでの常識を覆す全く新しい形の本だったからこそたくさんの読者を惹きつけたのだと思われる。

 「学問のすゝめ」は読んで字のごとく、学問をすすめる書である。ただ、福沢のいう学問とは曲学ではなく実学である。実学とは自然科学・経済学そして読み書きそろばんなど社会が必要とする学問のことである。
 「学問のすゝめ」の底に流れる思想は民主主義である。民主主義とは人民に主権が存在する社会である。政府は本来人民から選ばれた人たちで構成されるべきもので、政府が人民の主人ではなく、人民が政府の主人であると福沢は唱える。ただし、人民は政府の主人といっても、政府と人民との間にはおのずからルールが存在する。そのルールが法律であるとも福沢はいう。法律を守ることは人民の必然であることを福沢は力説するのである。 とくに、このことは第6編「国法の貴きを論ず」、第7編「国民の職分を論ず」でくわしく述べられている。法治国家の視点から福沢は赤穂浪士の義挙や楠木正成を否定する。このことが発表されると相当な物議を醸しだし、福沢はそれに対して反駁する。
 私は明治の初頭に主権は人民にあると明快にわかりやすく唱えた福沢の見識に脱帽する。

 「学問のすゝめ」の第1編は有名な「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らずと言えり。」で始まる。福沢は終生門閥制度を憎んだ。人間は生まれながらに平等である。それではなぜ、ある人は成功し、ある人は失敗するのか。それはやはり自分の問題であると福沢は言及する。学問はその自分の問題に深く関連すると私には思える。
 福沢の思想は現在でもその新鮮さは薄れない。私には福沢の言葉は「最後は自分だぞ。自分を磨け」といっているように思える。
 自立した人間、それは自分の考えでもって事を処する人である。ただ、自分の考えは独断と偏見であってはいけないとも福沢はいう。福沢は舌鋒するどく、学者といわれる人たちを攻撃する。
「文字を読むことのみを知って物事の道理を弁えざる者は、これを学者と言うべからず。いわゆる論語よみの論語しらずとは即ちこれなり。」
 広く知識を得て、それを分析して自分の考えを主張する。これはなにも福沢の生きた時代が要求したものでなく、現在でも必要な姿勢である。これぞ自立した人間である。自立した人間が多くでれば必然的に国も自立していくと福沢は考える。

 「学問のすゝめ」を読むと、福沢がいかに見識が広く深いかがわかる。自然科学・政治学・経済学・宗教学・歴史学・商学なんでもござれである。福沢は日本を救うには学問であると真剣に考えたに違いない。私はこのことを「学問のすゝめ」を読んで痛切に感じた。

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緒方洪庵の墓 写真上:福沢諭吉先生が埋葬されている港区麻布山善福寺。この寺は最初のアメリカ公使館になった場所でもあります。その他に越路吹雪さんの墓もあります。この寺から慶應義塾大学までは目と鼻の先です。この墓は献花が絶えないとお参りの人が述べていました。
 写真左は福沢の師である緒方洪庵の墓です。文京区高林寺に埋葬されています。


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