星新一「明治の人物誌」を読む

上野公園に建っている野口英世像 星新一の「明治の人物誌」はその名が示すように明治に生きた10人の人物について書かれたものだ。その10人とは、中村正直・野口英世・岩下清周・伊藤博文・新渡戸稲造・エジソン・後藤猛太郎・花井卓蔵・後藤新平・杉山茂丸である。ほとんどが有名な人であるが、ピンとこない人もいる。
 政治家・教育者・発明家・弁護士などがいるが、どのような意図でこれら10人を選んだのだろうかと訝しむ読者がいるかもしれない。ただし、星新一の「人民は弱し 官吏は強し」を読んだものにとってはこの人選は納得すべきものかもしれない。10人はいずれも星新一の父星一とゆかりのある人たちなのである。

 星一は明治6年生まれ。苦学をして学校を卒業しそれから単身アメリカに渡り、そこでもすさまじいまでの苦学をしてコロンビア大学を卒業した。日本にもどると、製薬会社を立ち上げ、大企業へと成長させる。ところが好事魔多し。国家権力によって奈落の底へと転落する。それでも星一は夢・希望を捨てず、前向きに生きていく。詳しくは「人民は弱し 官吏は強し」を読まれたし。
 星一のことは普通の歴史の本には載っていないが、間違いなく偉大な人物であった。星一は情熱をもってかつ想像を絶する努力をもって邁進していく。そのバイタリティはどこから生まれてきたのであろうか。
 星新一は父の星一にやる気を起こさせた1つが中村正直が訳した「西国立志編」だとみる。「明治の人物誌」は中村正直のことから始まる。10人の内、唯一、星一と面識がないのが中村正直である。「西国立志編」はイギリス人のスマイルズが書いた「自助論」という本の訳本である。この本は過去の偉人たちのことを紹介したものである。中村は幕命でもって幕末にイギリスに留学をした。日本へ帰る船中で中村は「自助論」を夢中になって読んだ。中村は西洋の発展を促したものが何かがわかり、「自助論」を翻訳して日本人に読ませようと決心する。当然、星一もこの本をむさぼるように読んだ。アメリカにまでもっていった。
 
 10人の人物たちは当然個性的で、十把一からげで述べることはできないが、1つだけ共通点がある。それは10人とも非常に魅力的であるということである。信念をもって、自分が理想とすることに誠実に努力しているのだ。理想としているところはもちろん経済的成功などというものではない。彼らはむしろお金に困っていた。
 「明治の人物誌」は10人の偉人・豪傑たちの生き様をまざまざと見せてくれる。読み終わったとき私は「人はなぜ生きるのか」という単純で根源的な問題にぶつかった。なぜ野口英世やエジソンは夜の目も寝ずにひたすら研究したのか。なぜ銀行家岩下清周は回りから反対されてもこれはと見込みのある人たちにどんどん融資をしたのか。なぜ後藤新平は借金をしてまで人を応援したのか。なぜ新渡戸稲造は老体に鞭を打って日米の架け橋になろうとしたのか。なぜ花井卓蔵は弁護費用を払えない貧しい人たちのために法廷で戦ったのか。
 10人の人物たちは間違いなく理想をもっていた。理想を夢と置き換えてもよい。彼らの理想追及の姿を見ると、「夢をもつ」ということがどれほど恐ろしいことかがわかる。「夢をもつ」ことは裏を返せば血を見るということでもある。「夢をもつ」ことは死ぬ覚悟が必要なのだとも思えてくる。だからこそ夢を追いかけている姿は魅力的なのであろう。
 
 「明治の人物誌」は現代人にとっての「西国立志編」のような名著である。人に「夢をもて」と偉そうにしていう人にまず読んでほしい本である。

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 品川区西大井にある伊藤博文公墓 写真上は、東京都台東区上野公園に建っている野口英世像です。
 写真左は品川区西大井にある伊藤博文公墓です。星新一の実父である星一はアメリカ滞在のときに伊藤博文と出会い、伊藤がアメリカ滞在のときの秘書官的な役割をしていました。そのときに星一は伊藤に野口英世(福島県会津出身)を紹介しました。星一は野口英世に金銭の援助をそれとなく行っていました。星一は帰国後伊藤に役人になることを誘われましたが断りました。
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