高木貞治「数学小景(すうがくしょうけい)」を読む

 大学の理・工学部の教養課程の数学の授業ではかならずといっていいくらい「線形代数学」と「解析学」を学習する。「線形代数学」の内容の中心は行列・行列式で、「解析学」の内容の中心は微分積分である。
 「解析学」の参考書として永らく使用されているのが「解析概論」という名著で、この本の著者は高木貞治である。「解析概論」があまりにも有名になりすぎたので、高木は解析学の専門家と見られているが、高木の専門は数論である。
 高木は日本の数学界の創立者みたいな人である。1875年に生まれ、明治の優秀な人たちがほとんどそうであったように高木も東京帝大を卒業し、ドイツに留学した。ドイツ留学中に学位をとり、帰国後東京帝大で教鞭をとった。以後、数学の研究並びに後進の育成に勤しんだ。高木のもとから優秀な数学者が育ち現在でも高木の流れを汲む数学者はおおぜいいる。東大の数学科には世界的に優秀な代数学の専門家がたくさんいるのも高木の流れからかもしれない。

 「数学小景」は高木が6つの問題について詳しく解説をしたものである。これらの問題はおもしろく興味が湧くものであるが、また、現代数学につながる意味深い問題でもある。6つの問題とは<ケーニヒスベルグの橋渡り><ハミルトンの世界周遊戯><隣組、地図の塗り別け><十五の駒遊び><魔方陣><仕官三十六人の問題>である。
 <ケーニヒスベルグの橋渡り>は数学史上最も有名な問題の1つである。ドイツのケーニヒスベルグの市中には3つの川が流れていて、橋が7つ架かっていた。ある人がその7つの橋を、1つの橋を2回渡ることなく、すべて渡り切ることができるかという問題を考えついた。現在でいうところの一筆書きの問題である。それでいろいろな人がその問題に挑戦したが誰も解くことはできなかった。そこで町の人が有名な数学者であったオイラーに相談した。オイラーは即座にこの問題を解くことは不可能であると断言したという。オイラーはこの問題から一筆書きの理論なるものを考えついた。そしてこの理論が成長して、現代数学では非常に重要な分野であるトポロジー(位相幾何学)となるのである。
 <ハミルトンの世界周遊戯>は正多面体に関する問題である。多面体の理論もオイラーによって<ケーニヒスベルグの橋渡り>の問題から発展させられたものである。正多面体は合同な面で囲まれた多面体で、正四面体・正六面体・正八面体・正十二面体・正二十面体の5つしか存在しない。この正多面体の理論の土台となるのがオイラーの公式である。正多面体の問題も現代数学の重要な基礎をなす問題である。
 <隣組、地図の塗り別け>の問題は現在では4色問題として有名である。4色問題とは地図を4色で塗り別けることができるかという問題である。この「数学小景」が書かれた昭和19年ではまだ4色問題は解かれていなかったが、現在ではコンピュターの力を借りて4色問題は肯定的に解決されている。4色問題も位相幾何学における重要な問題である。
 残りの3つの問題も馴染みのある問題でなおかつ現代数学の重要の基礎をなすものである。

 現代数学は非常に抽象的で難しいものであるが、もとはといえば日常起こるささやかな疑問をその端緒としている。偉大なる数学者はささやかな疑問から普遍的な理論を構築しそして体系化してきたのである。
 現代数学が進歩したといってもいまだに解決されていない問題は多い。とくに高木が専門の数論の分野では解けない難問がたくさんある。それらの難問の解決の糸口も日常のささやかな疑問の中にあるかもしれない。
 「数学小景」は数学とは何ぞやと思っている人にはぜひともおすすめの名著である。

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