宮脇俊三「時刻表2万キロ」を読む

肥薩線人吉駅に停車する特急 宮脇俊三「時刻表2万キロ」はこれぞ名著といわれる名著である。この本がこれからも未来永劫読み継がれること請け合いだからである。とにかくぞくぞくするようなおもしろい本である。
 「時刻表2万キロ」は読んでいくうちに心の底から楽しい気分にさせてくれる。それではさぞやすごいことが書いてあるのかというと、世間一般の人にはあまり知られていない国鉄(JRの前身)のローカル線に乗ったことが書かれている。
 国鉄のローカル線に乗ることがそんなに面白いことなのか。著者の宮脇はある目的をもってローカル線を必死になって乗っていた。その目的とは日本中の国鉄の全線区を乗車することであった。「時刻表2万キロ」は宮脇俊三という時刻表マニアが国鉄を踏破するという紀行文というよりも記録文といったほうがよい物語である。
 「時刻表2万キロ」は宮脇の趣味が嵩じて書かれたものである。宮脇は小さい頃からの鉄道ファンであり、毎月時刻表を愛読していた。本来時刻表とは旅行をする際に列車の出発・到着の時刻を知るためのものであるが、宮脇にとっては時刻表は調べるものではなくて読むものであった。
 宮脇の本職は出版人であり、雑誌の編集者であった。宮脇は時間の許す限り、時刻表を読むだけでなく、実際に列車に乗って全国を旅した。そして知らず知らず乗車距離が増えて、乗車距離が日本全体の乗車区間の90%近くなったとき、100パーセントを目指すことを決心した。日本中の国鉄を完乗しようとしたのである。

 「時刻表2万キロ」は乗車区間があと10%(約2000キロ)を残して、それから未乗車線区をすべて乗車するまでのことが書かれている。ある意味戦いの記録ともいえる。壮絶なる場面はでてこないが、時刻表をいかにうまく読み解くかというちょっとした知的興奮を与えてくれる。時刻表をよほどうまく読む力がないと、限られた時間を使って(宮脇はサラリーマンであるから旅行は週末に限られた)、全国津々浦々のローカル線を要領よく乗り継ぐことができない。かなり合理的に準備された計画が必要である。時にはタクシーを使っての乗り継ぎには興奮させられた。
 それにしても日本の国鉄の線区をすべて乗車することに何の意味があるのであろうか。これは宮脇自身何度も反芻している。「時刻表2万キロ」の尊さは、自然の情から導き出されての行動に意味づけをすることの無意味さを私達に教えてくれることである。おもしろいことを理屈抜きで挑戦することに人間本来の姿があると私はこの本を読んでつくづくと思った。
 「時刻表2万キロ」は14章から構成されている。第13章の足尾線で完乗が完成する。完乗したとき宮脇は虚無感を感じるがそれは達成感の裏返しであろう。私は感動した。何かを成し遂げた感じがした。人にはわからない苦労をして、一線一線を克服する宮脇の姿は何かを創りあげている姿そのものであった。
 「時刻表2万キロ」は推理小説を読むようなおもしろさをももっている。宮脇は時刻表に潜むトリックを1つ1つ解読しているようでもある。松本清張の不朽の名作「点と線」は時刻表に隠れた真実をトリックとして利用したものである。

 国鉄がJRとなり、赤字ローカル線がなくなり、そして宮脇が頻繁に利用した寝台列車もほとんど姿を消した。そのうち、東京・大阪間もリニアで1時間でつながれるのであろう。時刻表もいつかは消えていくのかもしれない。ところが、「時刻表2万キロ」はいつまでも色あせることなくわくわくするようなおもしろさを読者に与え続けていくことであろう。

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 写真は、肥薩線人吉駅に停車している特急列車です。この本にも湯前線に乗って人吉に出る件があります。

時刻表2万キロ (河出文庫 み 4-1)

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宮脇 俊三

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テーマ : 鉄道 - ジャンル : 趣味・実用

Tag : 時刻表2万キロ

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