伊波普猷「古琉球(こりゅうきゅう)」を読む

 ここ1年多くの日本人の目が沖縄に向けられてきた。これから沖縄の米軍基地がどうなると思ってのことである。注目を浴びる沖縄であるが、私たち日本人は沖縄についてどれだけのことを知っているのであろうか。
 明治になるまで沖縄は薩摩藩の管理下におかれ、明治になってまもなく琉球が沖縄県になったことぐらいしか歴史の教科書には載っていない。沖縄のルーツになるとほとんど知らない。沖縄の人たちの祖先は一体どこからきたのであろうか。日本なのか、はたまたシナなのか。
 これからも沖縄はある意味日本本土の犠牲になって重い基地負担をしいられるのであろうか。私たちは沖縄の人たちに同情するだけでなく、やはり沖縄についてもっとよく知ることが必要なのではあるまいか。

 「沖縄学」なるものがある。これは沖縄の文化・伝統・歴史・民俗などを総合的に研究する学問である。伊波普猷(いばふゆう)が起こしたものである。伊波は沖縄出身で1876年に生まれ、三高・東京帝大へと進み、言語学を専門とした人であるが、終生沖縄の様々のことを調べた不屈の人である。
 「古琉球」は伊波の沖縄に関しての論文を集めたものである。タイトルが示す通り、古い琉球について書かれている。内容は多岐に渡っているが、中心になるのが「おもろそうし」という沖縄独特の歌集についてである。オモロとは神歌であり、室町時代から歌い継がれている。「おもろそうし」はオモロを集めた万葉集のような歌集である。オモロの言葉はたいへん難しく、伊波によって初めてオモロの解読が可能になった。
 伊波は「おもろそうし」や沖縄の言葉を通して、琉球人の祖先がどこからきたのかを解明している。琉球人は一体どこからきたのか。伊波によると、今日の沖縄人は紀元前に九州の一部から南島に殖民した者の子孫であるということである。この説の裏づけになっているのが、現在使われている琉球語のいくつかが、古事記と万葉集に同じ意味で使われているということである。たとえば、「いめ」(夢のこと。古事記に見られる)、「いくところ」(幾人ということ。古事記に見られる)、「ぬウじ」(虹のこと。古事記に見られる)、「わ」(吾のこと。万葉集に見られる)などである。この他にも古事記・万葉集との共通語をあげている。
 「古琉球」にはいろいろな歴史的事実・民俗・歌・神話などについて書かれた論文が収められている。そのタイトルをいくつかあげてみる。

 琉球人の祖先について・琉球史の趨勢・進化論より見たる沖縄の廃藩置県・琉球における倭寇の史料・官生騒動に就いて・俚諺によりて説明されたる沖縄の社会・琉球に固有の文字ありしや・琉球の国劇・オモロ七種・可憐なる八重山乙女・民謡に現われたる八重山の開拓・琉球語の係結に就いて・琉球の神話 など

 琉球の神話の中にアダムとイブの神話に非常に似たものがあるのに少し驚いた。人間がなぜ労働の苦を味わうことになったかが説かれている。
 「古琉球」は難解な論文集である。伊波の執念みたいなものを感じる。

 沖縄の人たちの祖先は日本人であるというが、琉球と日本(特に薩摩藩)との接触が頻繁になったのは豊臣時代からである。琉球はシナに朝貢をしており、そして薩摩藩の管理下に置かれているという特異な状態にあった。そのような状態の中で多くの政争があり、琉球の人たちは必死になって生きてきたのである。オモロはことあるごとに読まれた。オモロには沖縄の人々の魂が込められているようである。
 伊波は琉球人の魂を再生させたといってよい。

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