杉森久英「大風呂敷 後藤新平の生涯」を読む

日比谷公園に建っている市政会館 戦前の政治家の中で最も人気のあったのはやはり後藤新平であろう。
 後藤がなぜ国民的人気があったのか。まず挙げられるのが後藤が薩長藩出身でなく、朝敵であった東北の藩の出身であったからである。明治の政治においては、薩長の人間であらねば人にあらずといわれたほど薩長の人間は幅をきかせていた。
 日本の政党は薩長に対抗してできたものである。自由党の板垣退助は高知県出身であり、立憲改進党の大隈重信は佐賀県出身で、2人は薩長の後塵を拝していたのである。
 次に後藤の人気の理由(実はこの理由が本当の意味で一番なのだが)は、後藤が大風呂敷といわれるほど大きなことをぶち上げる政治家であったことだ。後藤はとてつもないことを計画した。
 大正12年の関東大震災が起きたとき、後藤は山本権兵衛内閣の内務大臣であった。後藤は帝都復興院総裁を兼任し、首都東京を復興させるべく行動を起こした。そのときの予算は何と40億円であった。当時の国家予算は約14億円であったから、後藤は国家予算の3倍もの復興予算を要求したのである。このたびの東北関東大震災において復興予算を250兆円(国家予算を大体90兆円として)とするようなものである。さすがにこの予算は議会を通らず、5億円ぐらいまで下げられた。もし、後藤の要求した予算が通っていれば、今の東京はがらりと変わっていたはずである。
 政治家としての後藤はつねに大きなことを考え、そして成し遂げてきた。

 杉森久英著「大風呂敷」は後藤新平の生涯を描いた小説で、痛快な偉人伝ともいってよい。
 後藤はまだ江戸時代の1857年に現在の岩手県水沢で生まれた。後藤家は貧しい下級武士の家であった。後藤の子供時代は腕白で喧嘩好きであったが、勉強はよくできた。後藤の将来に期待する人たちに恵まれ、後藤は彼らの援助で福島の医学校を卒業して医者になった。 
 後藤の夢は政治家になって国を動かすことであった。医者になることを後藤は望まなかったが、はからずも医者になったことで政治家としての道が拓けた。後藤の経歴を概略すると次のようになる。
 愛知県病院長兼医学校長・内務省衛生局長・台湾総督府民政長官・南満州鉄道初代総裁・(桂内閣)逓信大臣兼鉄道院総裁・拓殖局総裁・(寺内内閣)内務大臣・外務大臣・東京市長・(山本内閣)内務大臣兼帝都復興院総裁・貴族院議員
 後藤は立身・出世をこよなく愛した人間であったが、それ以上に日本の国を愛した人間である。後藤の若い頃の愛読書は「西国立志編」で何度もこの本を読んだ。後藤はどんな失敗にもめげず、つねに上を向いて進んだ。
 後藤は豪放磊落で男からも女からも好かれた。あの社会主義者の片山潜も後藤の人柄に惹かれた。後藤にとっては右も左も関係なかった。また、後藤は美男子で若い頃から女にもてた。妾をたくさんもった。
 後藤の求心力はとにかくすごかった。後藤は国民的人気があり崇拝者も多かったのであるが、そのため敵もたくさんいた。後藤の人気と能力に嫉妬したのである。後藤が総理大臣になれなかったのは、元老たちが後藤を妬んだからだといわれている。戦前は元老の推薦がなければ総理大臣にはなれなかった。
 後藤の人生は立身・出世を地で行くような豪快なものであった。
 
 後藤だけでなく、岩手県出身で、いい意味でも悪い意味でも歴史に名を残した政治家は多い。原敬・斉藤実・米内光政がおり、そして東条英機は育ちは東京でも東条家は岩手県出身である。鈴木善幸・小沢一郎も岩手県出身である。
 東北からは国を動かす政治家がたくさん出ている。近い将来、未曾有の大被害を受けた東北から後藤新平のような国を大きく変える大政治家が出ることを私は信じている。

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 写真は、日比谷公園に建っている市政会館です。市政会館の案内板には、< 大正9(1920)年に東京市長に就任後、東京市政のための中正独立の調査機関設置を構想した後藤新平は、大正11(1922)年に東京市政調査会を設立して自ら会長となった。後藤は、安田財閥・安田善次郎の寄付を受け日比谷公園内に公会堂を付置した会館を建設し、会館は調査会が使用し、公会堂は東京市の管理に委ねることとした。これが、現在の市政会館と日比谷公会堂である。・・・>と書かれています。ちなみに安田善次郎は東京大学に寄付して、安田講堂の名を残しています。

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